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図書館員の気になる一冊

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奈良県立図書情報館に所蔵されている本の中から、図書館員が気になる1冊を紹介します。 (こちらの記事は、奈良県立図書情報館メールマガジン「Lib Info NARA -奈良県立図書…
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#本の紹介

コンビニエンスストアと日本の流通:流通経済論からの分析【#図書館員の気になる一冊】

 忙しい時の食事やちょっとした買い物などでコンビニを利用する方が多いと思います。コンビニは、忙しい時や困った時にいつでも頼れる、私達の生活に欠かすことができない身近なものになっているのではないでしょうか。  経済産業省によれば、コンビニは「飲食料品を使い、売り場面積30平方メートル以上、250平方メートル未満、営業時間が1日14時間以上のセルフサービス販売店」と定義されています。コンビニの始まりは、1920年代末のアメリカとされ、1970年代から日本でも出現するようになり、1

ケアする声のメディア:ホスピタルラジオという希望【#図書館員の気になる一冊】

 ホスピタルラジオとは、主にイギリスの病院で入院患者を元気づけ、回復を助けることを目的に始められた取り組みです。日本では2019年に藤田医科大学病院で最初に行われました。本書では、そんなホスピタルラジオの、発祥地イギリスにおける歴史や日本での広がり、今後の可能性について考察されています。  イギリスでは150を超える病院内にラジオスタジオが設けられ、運営はボランティアによってなされています。院内のイヤホンジャックなどから聞けるようになっており、入院患者からのリクエスト曲やメッ

それでも母親になるべきですか【#図書館員の気になる一冊】

 アメリカの大統領選挙関連の報道をみていると、21世紀の現在において、女性候補者に母親の経験があるかが取りざたされることに驚かされます。申し分のない学歴、キャリアを手に入れた女性が大統領候補になったとき、「母親」であることが求められるのはなぜなのでしょうか。  子どもをもたない著者は、子どもをもつ女性ともたない女性との溝を感じ、本書を執筆しました。当初の目的は、歴史上、母親にならなかった女性を取り上げ、価値や功績を評価することにあったといいます。女性が子どもをもたなかった理由

三省堂国語辞典から消えたことば辞典【#図書館員の気になる一冊】

 「辞書を知るなら序文から」そんな発見をした本をご紹介します。  最近、紙の辞書を引くのがおっくうで、何でもネットで検索してしまう。そんな方も多いのではないでしょうか。かくいう私もそのひとり。手に取る機会が減った紙の辞書ですが、改訂版が発行されると、にわかに脚光を浴びます。どんな言葉が追加されたのか、削除されたのかが注目され、メディアでも取り上げられています。  さて、2022年1月には『三省堂国語辞典』の第8版が発行されました。『三国』の愛称で親しまれ、前身の辞書『明解国語

明朝体の教室:日本で150年の歴史を持つ明朝体はどのようにデザインされているのか【#図書館員の気になる一冊】

 街で見かけるチラシやポスターには色々な文字が躍っており、使われている書体も様々です。本の表紙などにも様々な書体を見かけますが、本文には同じような書体が使われているように感じる方が多いのではないでしょうか。実際、本や新聞などの本文に最も利用されているのが、この本で取り上げられている明朝体という書体です。明朝体は明の時代に用いられるようになった印刷用の書体であり、縦線が太く横線が細いのが特徴となっています。  日本語の文章は、漢字・ひらがな・カタカナ・アルファベットの四種類の文

おみくじの歴史 神仏のお告げはなぜ詩歌なのか【#図書館員の気になる一冊】

 子どもの頃、月のはじめに神社にお参りするのが習わしだった。楽しみは「おみくじ」。しかし今から思えば、示された運勢に一喜一憂するばかりで早々と紐に結びつけ、満足していたものだ。現在は内容を読むようにはなったけれども、和歌にまで注目しているだろうか。  本書は、和歌や漢詩といった詩歌が神仏のお告げとみなされるようになったのはなぜなのかを主題とする。さらにはルーツである古代の卜占から、誰がつくっているのか、何度引いてもいいのか等、謎に満ちたおみくじの歴史を豊富な事例を通して紹介す

描かれた中世城郭:城絵図・屏風・絵巻物【#図書館員の気になる一冊】

 日本の城というと、そびえ立つ天守閣をイメージしがちですが、天守閣が造られ始めたのは、戦国時代。鎌倉時代や室町時代の城は、かなり簡素な構造をしていました。バリケードや堀による防御力の増強を、総じて「城郭を構える」と称しており、戦闘時に臨時で構築されたり、武士の住宅が戦時に城郭として利用されたり、寺院が城郭化したりしていたため、痕跡が残りにくいという特徴がありました。そんな城郭をどのように知るのか。本書は、その手掛かりを絵画に求め、中世城郭が描かれた屏風や絵巻物をまとめたもので

雪と暮らす古代の人々【#図書館員の気になる一冊】

 古代の日本では、雪の季節をどのように過ごしていたのでしょうか。雪を詠み込んだ歌が『万葉集』などの歌集にみられることから、漠然と「和歌に詠まれていた」という印象はあっても、実際の雪の中での生活までは想像したことがない方も多いかもしれません。本書では、諸史料を読み解きながら、当時の人々の雪とのかかわりを明らかにしていきます。  ところで、一口に雪といっても、雪国とその他の地域では、雪の降る量や頻度に差があるのは今も昔も同じでした。天平勝宝三(751)年正月二日、越中の国府では積

近代吉野林業と地域社会 : 廣瀬屋永田家の事業展開【#図書館員の気になる一冊】

 編著者らのグループが永田(えいだ)家文書調査のため、東は東京から西は福岡に至る全国から図書情報館を初めて訪ねたのは2014年というから、もう10年になる。この間、当館寄託のものだけではなく、下市の永田家自体が所蔵する分や、現東吉野村の安田家所蔵文書を含めて調査は続けられた。その成果を一冊にまとめたのが本書になる。  収められた論文には、紀要論文や著者の単著などですでに発表されているものに、手を加えたものもあるが、こうやって一冊となったものを読んでみると、また違った印象を受け

大災害とラジオ : 共感放送の可能性【#図書館員の気になる一冊】

 災害時、みなさんが情報を得る手段として備えているものは何でしょうか。ラジオを日常的に聞く人が年々減少している中でも、災害時の備えとしてラジオを用意しているという人は多いのではないでしょうか。  本書は新聞やテレビ、インターネット、SNSなど情報を伝える様々なメディアがある中で、ラジオの災害放送について取り上げられたものです。これまでラジオにおける災害放送には防災放送・被害報道・安否放送・生活情報の4パターンがあるとされてきました。しかし、この4つに加え、共感放送という5つ目

台湾博覧会1935スタンプコレクション【#図書館員の気になる一冊】

 日本の統治40周年を記念し、1935年に台北で開催された「台湾博覧会」。文具店や書店、菓子店、旅館など、様々な企業・商店がオリジナルのスタンプを作成し大いに盛り上がったという。スタンプだけではなく、スタンプを作成した各企業・商店について著者・陳柔縉(ちんじゅうしん)氏が丹念に調査、写真も交えて紹介されることによって当時の街の様子や世相が浮かび上がるようである。  加えて、台湾におけるスタンプの歴史、収録された309ものスタンプを蒐集した人物“楊雲源(よううんげん)”の人生に

集まる場所が必要だ : 孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学【#図書館員の気になる一冊】

 1995年にシカゴを襲った熱波は、貧困や暴力の問題を抱えた地域で多くの死者を出しました。そのなかで少ない被害に留まった地区の存在を知った著者は、その理由を探るために現地を訪れます。そこで目にしたのは、整備された公園や活気ある商店で住民が交流する姿でした。  公共空間で培われた人間関係が災害時に人々の孤立を防いだことから、命を守るコミュニティを構築・維持するには、「社会的インフラ」、すなわち「集まる場所」が必要であることに著者は気づきます。そして、これが日常生活においても人々

大江戸虫図鑑【#図書館員の気になる一冊】

 昨今、多種多様な昆虫図鑑が出版され、昆虫たちの姿は高精細な写真に収められています。では、一昔前の書物に描かれた昆虫たちはどのような姿をしていたのか、ご存じでしょうか。本書は江戸時代の書物に出てくる昆虫をピックアップし、彼らと当時の人々の生活文化とのつながりを、その生態の解説を添えて紹介した1冊です。  本書を広げると、まず精密に描かれた昆虫たちの挿絵に目を惹かれます。見開き左側に描かれた昆虫たちは、現代の昆虫図鑑にある写真ほど高精細ではありません。しかし、それぞれ体の形状が

私と世界をつなぐ、料理の旅路:14人の「私が料理をする理由【#図書館員の気になる一冊】

 ここ数年、コロナ禍で海外に行くことが難しかった中、日本で流行した海外料理がたくさんありました。例えばマリトッツォや鹹豆漿(シェントウジャン)など、名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。今では様々な海外料理を日本で味わうことができますが、ひと昔前の日本において、近年話題になったような海外料理は、今ほど身近ではありませんでした。その中で、生きていく道として日本料理ではなく、海外料理を選んだ14人の女性たち。  この本は14人がどうして料理の道を進んだのか、そしてど