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集まる場所が必要だ : 孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学【#図書館員の気になる一冊】

 1995年にシカゴを襲った熱波は、貧困や暴力の問題を抱えた地域で多くの死者を出しました。そのなかで少ない被害に留まった地区の存在を知った著者は、その理由を探るために現地を訪れます。そこで目にしたのは、整備された公園や活気ある商店で住民が交流する姿でした。
 公共空間で培われた人間関係が災害時に人々の孤立を防いだことから、命を守るコミュニティを構築・維持するには、「社会的インフラ」、すなわち「集まる場所」が必要であることに著者は気づきます。そして、これが日常生活においても人々の安全や健康に重要な影響を与えることを明らかにしたのが本書です。
 本書で紹介されている社会的インフラは、学校や書店、理髪店から、空き地を利用した市民農園や、多様なルーツを持つ労働者が働く工場、アイスランドの温水プール、そしてバングラディシュの水上学校まで様々です。その一つに図書館が挙げられています。
 著者は図書館でのフィールドワークやインタビューを通して、図書館は知識を得るだけでなく、子どもや高齢者、子育て世代といった人たちの居場所にもなりうることを実感します。また、見知らぬ人や世代・文化の異なる人が一つの場所を共有する図書館は、違いに対処する方法を学ぶ「民主主義の実験」だという言葉から、図書館と利用者が互いに信頼しあうことを前提に運営されることへの期待がうかがえます。
 社会的インフラの多くは公的資金によって行政に管理されますが、そのデザインには住民の参加が不可欠だと著者は訴えます。高級住宅街のような排除と分断をもたらす社会的インフラも扱うこの本を読みながら、私たちがどんな社会を望むのか、ともに考えていきたいと思いました。

(おおはら もえこ)

『集まる場所が必要だ : 孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学』エリック・クリネンバーグ著/藤原朝子訳 英治出版 2022.4

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