明朝体の教室:日本で150年の歴史を持つ明朝体はどのようにデザインされているのか【#図書館員の気になる一冊】
街で見かけるチラシやポスターには色々な文字が躍っており、使われている書体も様々です。本の表紙などにも様々な書体を見かけますが、本文には同じような書体が使われているように感じる方が多いのではないでしょうか。実際、本や新聞などの本文に最も利用されているのが、この本で取り上げられている明朝体という書体です。明朝体は明の時代に用いられるようになった印刷用の書体であり、縦線が太く横線が細いのが特徴となっています。
日本語の文章は、漢字・ひらがな・カタカナ・アルファベットの四種類の文字で表記されます。ルーツの異なる四種類の文字を組み合わせ、縦にも横にも組めるなどという言語は、世界でも日本語をおいて他にはありません。世界中のほとんどすべての書体がデザインの統一感を意識しているのに対し、明朝体は統一感とは無縁の書体だと著者はいいます。しかし、日本語の長文は明朝体で組むのがもっとも読みやすいとされ、本や新聞などの本文に利用され続けています。それは、統一感がないからこそだといいます。
明朝体で組まれた文章は、幾何学的なデザイン(漢字)の言葉が出てきたら漢語、有機的なデザイン(ひらがな)のことばが出てきたら和語、楷書ふう(カタカナ)は外来語、カリグラフィふう(アルファベット)は略語というように、文字のデザインと言葉の種類が密接に関係しているため、言葉の意味が取りやすく、可読性が高められているというのです。とはいえ全く統一感がないわけではなく、似た雰囲気がして読みやすいと感じてもらうためには、それぞれの文字の親和性がデザインには求められるとしています。
本書は、書体デザインの第一人者である鳥海修氏が明朝体のデザインと作り方について書いた本です。実際に書体デザインを学ぶ人に向けた連続講座をもとにしており、本文用明朝体の制作手順から、各書体の比較検討、文字の歴史まで、明朝体のすべてをわかりやすく解説しています。実際に一つの書体セットを作るためには、2万3058字(そのうち漢字は1万4663字)が必要であり、そのすべてをデザインのイメージを揃えるために調整していくのだそうです。
パソコンソフト等で普段何気なく見たり使ったりしている書体がどれほどの時間と労力をかけて作られているのか、書体デザインの奥深さを知ることができる一冊です。
(うえはら ちえ)
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