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図書館員の気になる一冊

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奈良県立図書情報館に所蔵されている本の中から、図書館員が気になる1冊を紹介します。 (こちらの記事は、奈良県立図書情報館メールマガジン「Lib Info NARA -奈良県立図書… もっと読む
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2023年10月の記事一覧

Nの廻廊 : ある友をめぐるきれぎれの回想【#図書館員の気になる一冊】

 本書を知った際には、その取り合わせに「へっ???」となりました。昭和戦時期を中心とする地道で重厚なノンフィクションを、冷静な筆致で記していく著者。一方、学生運動のリーダーから経済学者を経て、けれん味のある保守派在野言論人へと転じた西部邁。それぞれの著作には、そこそこ親しんできたつもりでしたが、あまり接点があるようには見えなかったからです。  ふたりが出会ったのは、中学生のころとか。著者の自伝『風来記 わが昭和史(1)青春の巻』(平凡社、2013)を読み返してみると、昭和20

音楽の未明からの思考 : ミュージッキングを超えて【#図書館員の気になる一冊】

 本書は音楽の力とは何かという問いについて、“ミュージッキング”という言葉を用い執筆されています。“ミュージッキング”とは音楽を動詞としてとらえた言葉で、ジャンルや地域を重視した「音楽」を語るのではなく、人々の営みに溶け込む音楽やダンスの全体性をとらえることを意味します。  例えば第4章では「歌」を取り上げ、歌うことで社会に参加する方法を分析しています。私自身の経験に照らし合わせると、学生時代の合唱は「重ね合わせによる融合的参与」、ライブに行った時のコールアンドレスポンスは「