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3月1日より中井久夫氏の関連本が加わりました



中井久夫氏は統合失調症の治療を深く探究した精神科医で、芸術療法「風景構成法」を発案したことでも知られています。「風景構成法」とは患者に川や山など10個の構成要素を描いてもらい、その絵の特徴から統合失調症のタイプや疾病類型を読み解くものだそうです。また、詩の翻訳やエッセーなど文筆家としても多くの業績を残しました。
 
阪神・淡路大震災当時は神戸大学の教授で、救援スタッフと地元精神科医との連携に努めるなど司令塔的な役割を果たされました。スタッフの手が足りなければ、被災した患者の電話問い合わせにも中井氏自らが応じ、処方の手配をする臨機応変な医師でした。
 
被災者の心のケアの必要性を早くから訴え、支援体制の構築や支援者の育成に尽力した中井氏は、2004年に心的外傷後ストレス障害(PTSD)の研究や治療・相談などに当たる全国初の施設「兵庫県こころのケアセンター」が開設された際、初代センター長に就任されています。
 
「兵庫県こころのケアセンター」は日本初の心のケア専門機関。被災者のケアや調査研究、神戸連続児童殺傷事件・大阪池田小事件・明石花火大会歩道橋事故・JR福知山線脱線事故、国外ではスマトラ沖大地震・四川大地震・台湾大地震など、犠牲になった方々のトラウマ治療やその支援者への研修等、さまざまな取り組みを行っています。
 
中井 久夫(なかい ひさお)
1934年奈良県生まれ。京都大学医学部卒業。神戸大学名誉教授。
著書「家族の深淵」で毎日出版文化賞受賞。2013年度文化功労者。
2022年8月逝去。


中井氏の功績を「エッセイ」、「翻訳」、「研究書」の3つのテーマに分けてご紹介


美しい語感で翻訳したポール・ヴァレリーの詩集や、自ら挿絵も担当された絵本


それでは、今回新しく展示に加わる本の中から少しご紹介します。

『若きパルク ; 魅惑』
ポール・ヴァレリー [著] ; 中井久夫訳
みすず書房
(資料ID:111004370)

中井氏とポール・ヴァレリーの詩との出会いは高校一年の授業でした。国文学の先生が、藤原定家の和歌と、ヴァレリーの詩を対比しながら教えてくれたといいます。この授業の日から、中井青年はリルケが翻訳したヴァレリーの詩を全文筆写し、日常携帯して持ち歩いていたそうです。その後50年あまり、研究書を広範囲にわたって探し求め、翻訳を試みてこられています。
本書(初版本)では、約100頁にものぼる中井氏の注釈「ヴァレリー詩ノート」や「ヴァレリー詩・ことばノート」、「若きパルク」「魅惑」に関するヴァレリーのデッサン等も収録しており、ヴァレリーの詩が私たちの心の中により鮮明に伝わる構成となっています。
「あとがき」によると、本を書き終えた日は中井氏の61歳の誕生日でした。そして、その6時間後に阪神・淡路大地震がやって来たのだそうです。


『いろいろずきん』
エランベルジェ原作/中井久夫文・訳
みすず書房
(資料ID:121014162)

本書は、中井久夫氏と交流があった精神科医のアンリ・フレデリック・エランベルジェ氏の原作を元に中井氏が書き上げた絵本です。挿絵も中井氏が担当しており、中井氏の多才さを感じさせられます。
黄・白・ばら・青・緑色のずきんを主人公にした5つのお話が収録されており、5人のずきん達を通して子どもが精神的に成長していく過程を描いています。優しく語られるお話と、水彩とクレヨンで描かれた可愛らしい挿絵に癒されます。


『精神科医がものを書くとき(ちくま学芸文庫)』
中井久夫 著
筑摩書房
(資料ID:111152690)

本書は、1980年から1994年までの中井久夫氏のエッセイ17編をまとめたものです。
統合失調症といった中井氏が尽力された分野の話から、「ストレスをこなすこと」など生活する上で私たちの生きるヒントになるような話題まで収録されており、興味深いです。


他にも、まだまだ関連本を展示しています!          是非ご来館ください。 


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