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「記憶の継承」ミュージアムガイド : 災禍の歴史と民族の文化にふれる【#図書館員の気になる一冊】

 「記憶を風化させてはならない」とよく耳にします。しかし、向き合い難い災禍の記憶を心に留めておくのは容易ではありません。本書はそうした記憶をすくい上げ、受け継ぐミュージアムのガイドブックです。
 扱われているテーマは、原爆や空襲、満州開拓、シベリア抑留、性暴力、ホロコーストなどの戦争の歴史、日本に共に生きるアイヌ民族や在日コリアンの文化、ハンセン病や水俣病とそれにまつわる差別の記憶、東日本大震災など多岐にわたります。中には知識の乏しい分野もあるかもしれませんが、各館の説明には歴史的背景も記されており、それが理解の助けになります。
 本書を読むと、紹介されている博物館や資料館の多くが地域社会と密接なつながりがあることがわかります。掲載されている写真には展示スペースに加えて建物や周辺の風景も写し出されており、施設がその土地にある意味が伝わってきます。開館の経緯や沿革が地域の歴史と重なる場合も少なくなく、こうした点からはこの国の草の根の近現代史が垣間見えるようです。
 運営者へのインタビューも印象的です。東日本大震災を記録する「リアス・アーク美術館」(宮城県気仙沼市)の館長である山内氏は、風化には“忘れる”ことと、そもそも“覚えていない”ことの二種類あると話します。また、当事者でない人に震災を伝えるため、わかりやすさをあえて追及していないと言います。
 「実際に体験したことでなくても、思考し、想像すれば、きっと記憶をこの手につかむことができる」
 本書を結ぶこの言葉から、その場所に赴いてそこにあるモノに触れることの強さを感じるとともに、私も各地を訪ねてみたいと思いました。 

(おおはら もえこ)

『「記憶の継承」ミュージアムガイド : 災禍の歴史と民族の文化にふれる』 皓星社編集部編 皓星社 2022.4

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