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種をあやす : 在来種野菜と暮らした40年のことば【#図書館員の気になる一冊】

 本書は、長崎・雲仙の地で農業を営む著者が、長年にわたり種採りを行ってきたこれまでのことを振り返り、これからの農業や野菜についての思いを綴ったものです。
 「種採り」は現在の一般的な農業では普通のことではありません。なぜなら、現在流通する野菜のほとんどがF1種と呼ばれる種で作られているからです。F1種とは、品種改良され、一代でその一生を終える種のこと。種は採れず、採ったとしても二代目は上手く育たない。それと引き換えに、人間の口に合うよう味や香りの再現性を上げているのです。
 著者もはじめは何の疑問も持たずに、F1種を使用し、農薬の散布も行っていました。しかし、農薬の健康被害を受け、自身の農業のやり方を一から見直しました。F1種という人間の都合で改良された種ではなく、農家が先祖代々、細々と守り継いできた在来種の種を採り、後世へつなげていくことを決心したのです。
 著者の畑では現在50種類もの在来種を育て、種を採っています。でも、後世に残すには足りないと思っているそうです。種の多様性を拓いていくためには、「人々と作物-育てる人・食べる人と在来種野菜-の幸せな関係性」が成り立っていることが不可欠と言います。消費者側が、形が不揃いでも在来種がよいと判断して購入すれば、農家も自信を持って在来種を育てられ、種をつないでいくことができます。
 タイトルの「種をあやす」をはじめ、「野菜の花は美しい」「種を旅に出そう」など、野菜の世界を表現する著者の詩情豊かな言葉とともに在来種の魅力を味わい、私たち消費者ができることについて思いを馳せていきたい一冊です。

(かとう ゆみ)

『種をあやす : 在来種野菜と暮らした40年のことば』 
岩崎(たつさき)政利著 亜紀書房 2023.5

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