音楽の未明からの思考 : ミュージッキングを超えて【#図書館員の気になる一冊】
本書は音楽の力とは何かという問いについて、“ミュージッキング”という言葉を用い執筆されています。“ミュージッキング”とは音楽を動詞としてとらえた言葉で、ジャンルや地域を重視した「音楽」を語るのではなく、人々の営みに溶け込む音楽やダンスの全体性をとらえることを意味します。
例えば第4章では「歌」を取り上げ、歌うことで社会に参加する方法を分析しています。私自身の経験に照らし合わせると、学生時代の合唱は「重ね合わせによる融合的参与」、ライブに行った時のコールアンドレスポンスは「組み合わせによる融合的参与」に分類されます。融合的参与は1つになることを目的とした歌による社会参与を指しますが、もうひとつ「掛け合いによる社交的参与」という分類があり、ラップバトルなどが例に挙げられます。
融合と社交の違いは、歌の音楽的コミュニケーションの側面を重視するか言語的コミュニケーションの側面を重視するかです。筆者は融合的参与の歌は歌詞と音楽が一体となり、人々の心を揺さぶるもので、社交的参与の歌は遠慮なく言葉を交わし、気の利いた言葉で張り合う社交の道具として使われるものだと述べています。この他の章でも多様なミュージッキングの例が様々な角度から語られています。
また各章の執筆者が語る「私を変えたミュージッキング」は、執筆者紹介に短く掲載されているのみではありますが、興味深く読むことができます。音楽的経験を言語化するのは難しいですが、音楽とは何かということについて考えることができる1冊です。
(かしわぎのりこ)
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