やりなおし世界文学【#図書館員の気になる一冊】
本は1年間に約7万点も出版されている。次から次へ新たな本が出るので、一昔前に出た膨大な数の文学作品に手を伸ばす機会は正直多くはない。また、いわゆる「名作」と呼ばれる作品を読んだものの「よく分からなかった……」という感想に終わってしまった経験も、文学作品から遠ざかっている理由のひとつかもしれない。『やりなおし世界文学』は、芥川賞受賞作『ポトスライムの舟』や本年(2024年)の本屋大賞にノミネートされた『水車小屋のネネ』の作者・津村記久子氏が、国内外の文学作品92作を読み、その感想を綴ったものである。
各作品の内容紹介や感想が、現代の言葉、時にはかなりくだけた口調で語られる。たとえば、中島敦の『山月記・李陵 他九篇』(岩波文庫)を紹介する章では、短編「狼疾記(ろうしつき)」に対して“いいから、もういいから敦!落ち着いて敦! と言いたくなるまでの壮絶考えすぎぶりに共感したものかやめとこうかと迷い、”(P.76)と、かなりフランクな感想が述べられている。
かと思えば、“中島敦の作品が、単におもしろいということを超えて、時に強烈に感動的なのは、そうやって切実な「乏しさ」を抱えた人物たちが、精一杯その運命を生きていくという姿を、ほとんど感動に癒着してこない清潔な文体で活写するからなのだと思う。”と、一転、冷静に作品について語る場面もある。かように、友人と話している時に感じるようなユーモアと作品を俯瞰して眺める目が同居した、文学作品の「楽しみ方」に気付く1冊。
気になる作品があれば、ぜひ図書館やお近くの書店で手に取ってみてください。津村さんの楽しみ方をなぞるのもよし、自分なりの楽しみ方を見つけるのもよし。
(ふじもと あきこ)
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