英語の路地裏 : オアシスからクイーン、シェイクスピアまで歩く【#図書館員の気になる一冊】
著者はシェイクスピアやフェミニズム批評、芸術の受容史等を専門とする文学者です。『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』という刺激的なタイトルの批評書が2020年「紀伊国屋じんぶん大賞」に選ばれており、そちらをご存じの方もおられるかもしれません。本書は、著者が演劇から小説、ロックミュージック、映画にいたるまで、その豊富な知識をもって、英語が楽しくなるようなちょっとした「路地裏」や「脇道」の入り口を覗かせてくれるエッセイです。
目次を見るだけでも、シェイクスピア、イギリスの児童文学『パディントン』、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』など、歴史ある作品から近年人気のものまで、さまざまなフィクションに言及されていることがわかります。これらの作品を題材に、学校の英語の授業を思い出すような文法や慣用句の解説はもちろん、ちょっとした言い回しやジョークから、それらが生まれた文化や歴史、時事的なニュースなどにまで触れられており、どの章も楽しみながら読むことができます。
言葉は時代によって変化していくものですが、その具体的な例についても背景とともに説明されています。例えば、英語で性別を特定しない単数の代名詞としてtheyが選択されるようになってきている経緯など、ごく近年の身近な例が取り上げられていて、最近の英語圏の変化を知ることができ、興味深いものです。数十年も経てば、こういった人称代名詞の使い方にはまたべつの変化が起きているかもしれませんが、それはまさに言葉が「生き物」であるからこその自然な流れなのだと感じられます。
この本を読んでわかるのは、著者が「はじめに」で言うとおり、「言葉」と「文化」が深く、密接に関わっているということ、そして、文化的背景をふまえてコミュニケーションをおこなうことは、外国語に限らず、第一言語においても、円滑な意思疎通を手助けしうるということです。その意味では、「人文学」の重要性を改めて認識できる本でもあります。
参考資料が豊富に掲載されているおかげで、読み終えると観たい外国映画や読みたい小説が増えてしまいますが、それらをこれから消化するのも楽しみになるような一冊です。
(まつだ しおり)
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