雪と暮らす古代の人々【#図書館員の気になる一冊】
古代の日本では、雪の季節をどのように過ごしていたのでしょうか。雪を詠み込んだ歌が『万葉集』などの歌集にみられることから、漠然と「和歌に詠まれていた」という印象はあっても、実際の雪の中での生活までは想像したことがない方も多いかもしれません。本書では、諸史料を読み解きながら、当時の人々の雪とのかかわりを明らかにしていきます。
ところで、一口に雪といっても、雪国とその他の地域では、雪の降る量や頻度に差があるのは今も昔も同じでした。天平勝宝三(751)年正月二日、越中の国府では積雪が四尺(約120センチ)に達し、翌三日、大伴家持は腰まで雪に埋もれて苦労しながら内蔵忌寸縄麻呂の館を訪れたようです。往来に困難を感じるほどの深い積雪があったことがわかります。一方、少し時代は下りますが、平安京では大雪となることはきわめて稀でした。
古記録の雪についての記述から、平安京での一度の降雪による積雪深は三寸(約9センチ)以下がほとんどで、一寸にも満たないことが多かったと考えられます。
このような雪の降り方の違いにより、雪に対するとらえ方は、都と北国ではまったく異なるものでした。都に暮らす貴族たちは、雪を豊年の瑞祥として祝ったり、雪山作りや雪見などの遊びをしたりして楽しみました。対する北国では、雪のために農作物が被害を受けたり、建物が倒壊したりと重大な災害が発生することもあり、雪がもたらす災いに重苦しい思いを抱いていたかもしれません。「雪」というキーワードから古代の暮らしが見えてくる、興味深い一冊です。
(おくむら かおり)
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