ケアする声のメディア:ホスピタルラジオという希望【#図書館員の気になる一冊】
ホスピタルラジオとは、主にイギリスの病院で入院患者を元気づけ、回復を助けることを目的に始められた取り組みです。日本では2019年に藤田医科大学病院で最初に行われました。本書では、そんなホスピタルラジオの、発祥地イギリスにおける歴史や日本での広がり、今後の可能性について考察されています。
イギリスでは150を超える病院内にラジオスタジオが設けられ、運営はボランティアによってなされています。院内のイヤホンジャックなどから聞けるようになっており、入院患者からのリクエスト曲やメッセージが流され、医師からの医療情報の提供や、ゲームやクイズなどを行うところもあります。
メッセージを聞いた他の患者が「自分だけではないんだ」という気持ちを持てたり、患者から医療者への感謝を表明できたりと、患者はただ治療を受けるだけの存在ではなく、ラジオを通して能動的に病院にいられるようになります。
ラジオネームで匿名性が守られたうえで、パーソナリティにメッセージを読んでもらえ、聞いた人も想像を膨らませられる余地があり、メッセージを返すこともできるラジオは、テレビなどの一方通行のメディアとは違い、その双方向性が魅力といえるでしょう。リスナーが同じ境遇を共有しているからこそ、より共感しやすく、一種のケアのような形で作用しているようです。
近年ではデジタル技術の進歩で、個人で音声を発信できるラジオアプリなども増え、音声での発信がより身近に、行いやすくなりました。本書を入り口に、私たちの個人的な声を届けてくれる「小さな」ラジオの魅力や可能性を知っていただければと思います。
(かとう ゆみ)
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