日本人が移民だったころ【#図書館員の気になる一冊】
戦前、経済的貧困や不況のなか、新天地を求めて海を渡った日本人がいました。行き先は朝鮮・満州・台湾や南洋・南米などさまざまですが、日本の植民地だった土地に渡った人々は、敗戦後、帰国することになります。本書は、植民地、主にパラオから日本へ引き揚げてきた人々が、戦後どのように生きたかをインタビューをもとにたどる、聞き書きルポルタージュです。
北は札幌から南はパラグアイまで、各地に暮らしている方のもとを著者は訪ね、当時の話を聞きます。取材は2017年頃から2022年頃にかけておこなわれたようで、戦前の当時、家族を連れて海を渡った第一世代はすでに亡くなられ、インタビューをうけたのは大半がその子ども世代の方々です。それでも、記録を読むと、移民になるという選択も当然、容易なものではなかったことがわかります。そして、引き揚げ後の生活もまた厳しいものでした。
周囲からの「よそ者」という冷たいまなざしや、種子島・パラグアイなどで新たな土地を開拓する暮らし、語られるかつての記憶は驚くほど詳細で鮮やかです。「右肩あがりの戦後イメージの陰に、知られざる戦後が本当はたくさんあったのだ。」(p.158)という文が特に印象的です。
現在では「移民」というと、労働などさまざまな理由で外国から日本へやってくる人々のことを指すことが多く、そういったイメージが広く共有されているようにも思われます。ですが、現在は「受け入れる側」である日本人が移民だった時代もあった、しかもそれはそう遠くない昔のことであり、その過去は私たちの「現在」に意外と近くでつながっているということが、戦前から戦後の今までを生きてきた当事者の語りによって、改めて感じられます。
「立場の弱い者が国の外へと押し出される。」(p.187)あとがきに書かれた一節が深く胸に沈みます。私たちはいかに共生社会を作るべきか、そもそも「国家」とは何か?というところまで思いをはせられるような1冊です。
(まつだ しおり)
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