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「ぼくらの戦争なんだぜ」【#図書館員の気になる一冊】

 およそ1年前、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、「戦争」という言葉は今までとは異なったリアリティで捉えられています。もちろんウクライナ侵攻以前にも、世界各地では戦争、内戦が数多く発生しており、アフガニスタン紛争、ベトナム戦争、朝鮮戦争など日本が関係する戦争もありました。しかし日本で単に「戦争」といえば、第二次世界大戦を指すことが多いのではないでしょうか。当館の「戦争体験文庫」の「戦争」もそうです。それほど第二次世界大戦が日本に与えた影響は大きかったと言えます。
 戦後に生まれた日本人は学校やそれ以外の場所で、戦争の悲惨さについて学びました。絵本、教科書、小説、映画、ドキュメンタリー、研究書など様々なメディアがありますが、実際に戦争体験者からお話を聞いたという方もおられるのではないでしょうか。著者である高橋源一郎氏は家族からの戦争の思い出話について、繰り返し聞かされていたこともあり退屈だったと述べます。
 一方で著者は、満州で日本軍に取り残されて家族全員を失った親戚の一人が言った「軍隊は最後に国民を裏切るから」と「長生きして、この国が滅亡するところを見たいね」の二つの言葉を覚えていました。聞き慣れて退屈なはずの思い出話の中にも、日常を切り裂くような何かが潜んでいる、その何かを探求していくことがこの本のテーマであると思います。
 本書で著者は、戦争中の大日本帝国の教科書、現在の教科書(日本以外に、韓国、ドイツ、フランスの教科書もあります)の戦争に関する記述、戦争中に書かれた詩、戦中戦後に書かれた小説など戦争について書かれた本を丁寧に読んでいきます。著者が紹介する戦争についての語りは、社会、国家のために使用される「大きな声」ではなく、自分の身のまわりを直視することから生まれた「小さな声」です。それは戦争に巻き込まれた人々が、社会に流布する「大きな声」に惑わされることなく、戦争にまともに向き合って紡いだ言葉です。
 彼らの声は私たちが普段感じている戦争のイメージを逸脱し、更新していきます。
 日本人にとって戦争とは、遠い昔に、あるいは遠くのどこかで行われている「彼らの戦争」でした。しかし、戦争は日常の中にある「ぼくらの戦争」であることがいよいよ明らかになりつつあります。戦争中の人々も現代に生きる私たちも日々の生活の中で「大きな声」に流されてしまいやすいことは同じです。この本は私たちがどうすれば戦争に対峙できるのかを教えてくれます。 

(さいとう けいいち)

『ぼくらの戦争なんだぜ』高橋源一郎著 朝日新聞出版 2022.8

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