「室町は今日もハードボイルド:日本中世のアナーキーな世界」【#図書館員の気になる一冊】
著者がもつ中世の人びとのイメージは、「道徳」的ではないこと、なのだそうです。ずいぶんとひどい言い方ですが、そんな気がしてしまうくらい、当時の人びとの行動はとてもパワフルなものでした。なにしろ、本書に挙げられている事例をみてみれば、落書きや呪詛で済めばまだましな方で、大河ドラマにも登場した「うわなり打ち」、果ては海賊に湖賊までもが出現するありさまです。ここまでくると、もはやそれはバイオレンスではあるまいか、という感じがしますが、いずれも中世の古文書に実際に記された事件ばかりです。
どうして当時の、しかも武士でもない庶民たちが、このような荒っぽい行動をとったのでしょうか。著者は当時の権力のありかた、神仏への意識など、いくつかの要因を挙げていますが、なかでも印象的だったのが、「自力救済」という概念の存在です。
この「自力救済」をざっくりいうと、公権力にたよらず、自分が被った損害は自分でどうにかする、という行動です。近代以前は世界的に容認されていた考え方ですが、日本の古文書においては、中世の事例がとくに多くみられます。
この時代、幕府の権力はさほど大きくなく、各地の荘園領主や武将たちは、それぞれ独自のルールによって支配していました。こんな統一感のなさすぎる世の中では、庶民も自分の権利や名誉を守るため、たとえ暴力的な手段をとることになっても、彼らなりに戦わねばなりませんでした。そうならば、本書に登場する物騒な事件の数々も、人びとの適応能力のなせるわざであったのかもしれません。
(たけばた あやこ)
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