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色のコードを読む : なぜ「怒り」は赤で「憂鬱」はブルーなのか【#図書館員の気になる一冊】

 サブタイトルにあるように、怒りを色で表すとすれば赤、「ブルーな気分」と言われれば少し憂鬱な感じを受けます。冠にセピア色と付けばどこかノスタルジックな空気が漂い、熱狂的なファンがアーティストに向けるのは黄色い歓声です。
 色を使って感情などの形のないものを表現する例は多くありますが、用いられる色や、そこから受けるイメージは万国共通なのでしょうか。
 本書イントロダクションでは、ドイツの文豪ゲーテが『色彩論』のなかで、色は純粋な科学現象ではなく、むしろ主観的な現象なのだと訴え色彩の持つ情緒的な力を強調したことが紹介されています。ゲーテのこの思想は英国の画家ターナー、ロシアの画家で美術理論家でもあったカンディンスキーらに影響を与えたと言います。
 続く本編では赤・黄・青・オレンジ・紫・緑・ピンク・茶・黒・グレー・白の11色を取り上げ、文化や芸術、宗教、科学、政治、ポップカルチャー等様々な側面から紐解きながら、それぞれの色が持つ背景を探っていきます。
 例えば、怒りと赤。人が怒ると顔が紅潮することから、多くの文化圏で「赤」と「怒り」は密接に関係しており、ドイツ語やスワヒリ語では「赤を見る」という言葉で怒りを表現するのだそうです。
 「どちらの方角が黒いですか」という質問は日本人には奇妙に聞こえますが、多くの文明では方角に色を割り当ててきた歴史があり、中国やトルコなど一部の地域では黒い方角とは北のことなのだと言います。
 このような色にまつわるエピソードがふんだんに盛り込まれた本書。色彩に関する著作を数多く持つフランスの文化史家ミシェル・パストゥローが「色とは、何よりもまず、社会的な構成要素なのだ」と述べているように、色が備えている社会的・文化的・時代的背景をともなう様々なイメージ・意味を識ることのできる一冊となっています。 

(とくやま さおり)

『色のコードを読む : なぜ「怒り」は赤で「憂鬱」はブルーなのか』 ポール・シンプソン著 中山ゆかり訳
 フィルムアート社 2022.12

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