防災アプリ特務機関NERV : 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年【#図書館員の気になる一冊】
2010年2月、ツイッター(現:X)上に気象警報をツイートするアカウント「特務機関NERV」が登場しました。特務機関NERVとは、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン(通称エヴァ)」の主人公が所属する組織名。しかし、これは公式アカウントではなく、エヴァ好きの大学生・石森大貴氏が遊びで始めたものでした。それがやがて本気のアカウントに変わり、2019年にはスマホアプリ「特務機関NERV防災」をリリースするなど、日本屈指の災害・防災ツールへと進化していきます。
転機は、東日本大震災でした。東京にいた彼は、ツイッターで節電を呼びかける“ヤシマ作戦”を行い、フォロワー数が急増します。ここから、彼の使命は収集した災害情報を迅速かつ正確に広めることになりました。今や、Xアカウントのフォロワー数は約200万(2023年12月15日現在)、アプリのダウンロード数は約340万(2023年1月)にのぼります。本書は、その過程におけるエヴァ版権元からの名称使用承認、カラーバリアフリーの作画システム実装、Lアラートへの接続、気象庁からの専用線の入手、そしてスマホアプリの開発などを丹念に描いていきます。
特に私が感服したのは、配信速度への執念です。2021年2月に福島県沖で最大震度5弱の地震が発生した際、Xアカウントは気象庁の緊急地震速報から約0.2秒、アプリも1秒以内に配信しました。テレビの速報より10秒以上早かったとも言われるこの速度は、彼を中心とする開発チームがミリ秒を削る作業を継続した結果にほかなりません。しかもアプリには広告が表示されず、基本機能は無料なのです。彼らの情熱とハードワークには本当に頭が下がります。
サブタイトルにある”ホワイトハッカー”は、コンピュータとネットワークに精通し、高度な技術を社会に役立つ目的として使う人を指します。私たちは時に「その行動力とスキルをなぜ善良な目的に活かさないのか」と思わざるを得ない人の行動を見聞きしますが、本書はその思いを一層強く感じさせられる一冊です。
(なかにし げん)
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