おみくじの歴史 神仏のお告げはなぜ詩歌なのか【#図書館員の気になる一冊】
子どもの頃、月のはじめに神社にお参りするのが習わしだった。楽しみは「おみくじ」。しかし今から思えば、示された運勢に一喜一憂するばかりで早々と紐に結びつけ、満足していたものだ。現在は内容を読むようにはなったけれども、和歌にまで注目しているだろうか。
本書は、和歌や漢詩といった詩歌が神仏のお告げとみなされるようになったのはなぜなのかを主題とする。さらにはルーツである古代の卜占から、誰がつくっているのか、何度引いてもいいのか等、謎に満ちたおみくじの歴史を豊富な事例を通して紹介する。
かつてのおみくじは今のような運試し的な気軽なものではなかった。どうしても判断に迷う悩みがある時、または集団として人事や恩賞の配分などの大きな決断を行う時、神仏に委ね、くじを引いたという。まず精進潔斎し社寺で悩みを告げて祈祷を依頼し、神官や僧侶などの宗教者にくじを引いてもらう。そしてそこで得た神仏のお告げである詩歌の解説をしてもらうというのが一連の流れである。そこに吉凶は記されない。
文字数の限られた詩歌は、散文と違って言い過ぎない絶妙な加減、余韻を残すところが心憎い。ゆえに解釈の仕方によって吉にもなり、また凶ともなりえる。詩歌を自分の悩みに当てはめ、神仏の真意はどこにあるのか、どの道を選ぶべきなのかを見定めなくてはならない。詩歌をどう読み解くかこそが、おみくじの醍醐味ということだ。
日本に限らず、聖なるものの託宣は詩歌で示される。詩歌は聖なるものと交信するためのメディアと考えると、吉凶に惑わされず、時間をかけて自分なりの解釈をしてみたいと思わされる。これからはおみくじは結ばずに、持ち帰ることになりそうだ。
(はまだ みわこ)
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