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外来動物対策のゆくえ:生物多様性保全とニュー・ワイルド論【#図書館員の気になる一冊】

 外来動物とは、人類が関与して、ありえない移動を強いられた動物たちのことですが、そのような動物の移動は、しばしば人類にとって必要な行為でした。人類は地球という星の生態系に生まれた生物の一種であり、何万年にもわたる進化の過程でさまざまな動植物を利用してきました。これは生物としての本能に従っただけであり、生物はみな自らの種の繁栄に向かって生きています。
 本書では、野生動物保全学の専門家である著者が、「外来種とはなにか」という根本から、外来種問題の発生、生物多様性条約までの歴史をたどりながら、日本の世界自然遺産の島々や本土の外来動物対策について詳述しています。
 さらには、外来種の排除を掲げる生物多様性条約の流れに異を唱える学者や科学ジャーナリストたちの問題提起(=ニュー・ワイルド論)とともに外来種問題を問い直しています。例えば、復活しそうもない原生自然(wilderness)より、新しい自然(new wild)にこそ活路があるという主張や、外来種から人々が受けてきた利益と被害の両面を十分に見極めて、対策の優先順位を選択しようではないかといった主張があげられています。生態系を常に変化しているものとして捉える姿勢も含めて、これらの思想と、現在の日本の外来種対策(あくまで「害性」の管理であって、外来種を全て排除するとはしていない)との親和性はとても高い、と著者は述べています。
 本書は、地球環境に大きな変化が生じている現代を生きる私たちが、外来種問題、ひいては生物多様性について考えるきっかけとなるような一冊です

(やぎ みほ)

『外来動物対策のゆくえ:生物多様性保全とニュー・ワイルド論』 羽澄俊
裕著 東京大学出版会 2024.6

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