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図書館で「サクラ」を愛でる。

こんにちは。奈良県立図書情報館のヤマです。今年もそろそろニュースに桜前線が出てくる季節になってきました。奈良県立図書情報館の目の前を流れている佐保川もきれいな桜並木があり、毎年人々が訪れる花見スポットとなっています。

数年前の当館周辺の桜並木(佐保川沿い)
数年前の当館と桜


そこで、今回のBBBのテーマは「サクラ」です。まず、当館職員がお花見をした気分になれる本を3冊選んでみました。

お花見シーズン お花見した気分になれる桜の写真

さくらいろ

『さくらいろ』森田敏隆著、発行:光村推古書院

緋寒桜、河津桜をはじめ、山桜、染井吉野、枝垂桜、八重桜、秋にも咲く四季桜まで、全国津々浦々、新春から晩秋まで桜を堪能できる写真集。

BOOKPLUSより

一度は見たい桜

『一度は見たい桜』森田敏隆(写真)宮本孝廣(写真)、発行:光村推古書院

日本全国の桜の写真集。樹齢を重ねた一本桜、どこまでも続く桜並木。田園に、湖畔に、街道に、時に山を埋めつくし、時に雪を背負いながら、桜は咲く。蕾がふくらんだ、一分咲きだ、と人はその開花を心待ちにし、花吹雪となって散る姿まで愛おしむ。桜の開花は毎年繰り返されるドラマである。そのもっともドラマチックな瞬間を切り取った、桜の写真集決定版。

BOOKPLUSより

京都桜案内

『京都桜案内』水野克比古(写真)、発行:光村推古書院

春爛漫の古都に咲く桜の花。京都は街中に桜の名所があり、歴史ある社寺、街並が桜色に染まります。京都を撮りはじめて三十年を越える著者が古都の桜を案内します。

BOOKPLUSより

昔から有名な桜の名所である吉野山は4月の上旬から中旬にかけて3万本ともいわれるシロヤマザクラが豪華絢爛に咲きみだれます。そんな吉野の桜が見られる絵図、古典籍を3点選んでみました。

お花見シーズン お花見した気分になれる桜の絵図 in 吉野山

大和國大峯山略図

『大和國大峯山略図』 出版者:山中富次郎、出版年:明治22年[1889年]

(前略)画面の下段左に吉野川と桜が満開の吉野山を配置し、中段右はに、山上ケ岳への登山口として古くから知られる洞川・竜泉寺があり、上段に山上ケ岳を大きく描き、吉野山と洞川から大峯山への参道が書き込まれている。桜に桃色、道と建物の一部に茶色を彩色。表題は吉野山・大峰山略図としてもよいものだが、大峰山を大きく配置し大峰山を主題とする構図になっている。(後略)

まほろばデジタルライブラリーより

大和路便覧一名芳山花栞

『大和路便覧一名芳山花栞』出版者:中島徳兵衛、出版年:明治25年[1892年]

(前略)跋文には、「此の帖は、嘗て芳山に遊ぶ行李中の手録なり」と記すように、吉野の桜を紹介するのが目的で、「吉野山一望之図」では、桜が満開の吉野山を色あざやかに描き、桜の見頃、見どころなどを文人たちの紀行文などを引用しながら記す(後略)

まほろばデジタルライブラリーより
『和州芳野山勝景図』出版者:丸屋善兵衛、正徳3年[1713年]
『和州芳野山勝景図』出版者:丸屋善兵衛、正徳3年[1713年]
『和州芳野山勝景図』出版者:丸屋善兵衛、正徳3年[1713年]
『和州芳野山勝景図』出版者:丸屋善兵衛、正徳3年[1713年]

貝原益軒が正徳3年(1713)に出版した吉野山案内記。竪30.5cm、横17cm、折山が22折りの大型の折本で、やや厚手の美濃紙を一折として継ぎ合わせる。巻頭の三面には「棲神霊藪」の大字があり、続いて吉野山の由来を述べる。この後、見開き八面に亘り、当時の実況を忠実に描いた写景図形式で、六田ノ渡しから上の安禅蔵王堂まで吉野山の満開の桜を描き、全体に丁寧な彩色を施している。絵図部に続く八折半は「吉野名勝考」と題する吉野の地誌である。(後略)

まほろばデジタルライブラリーより

吉野山定点カメラ

現在も人々を魅了する吉野の桜。2021年の様子をテレビ局が定点カメラで撮影しています。

吉野山観光協会

また吉野山観光協会では、毎年3月頃から開花情報をホームページ及びFacebookで掲載しています。


さて、BBBの恒例となってきました #連想図です。今回は、「サクラ」という連想がしやすいテーマでしたので、色々な言葉が集まりました。なかには、 #クローン #羊のドリー など、なるほど!となる連想をした言葉もありました。

#連想図

まずは、奈良県立図書情報館の司書たちが「サクラ」から連想した本の一部紹介します。

桜の森の満開の下

『桜の森の満開の下 ; 白痴 : 他十二篇』坂口安吾作 : 岩波書店

桜の森の満開の下は怖ろしい。妖しいばかりに美しい残酷な女は掻き消えて花びらとなり、冷たい虚空がはりつめているばかり―。女性とは何者か。肉体と魂。男と女。安吾にとってそれを問い続けることは自分を凝視することに他ならなかった。淫蕩、可憐、遊び、退屈、…。すべてはただ「悲しみ」へと収斂していく。

BOOKPLUSより

桜は本当に美しいのか : 欲望が生んだ文化装置

『桜は本当に美しいのか : 欲望が生んだ文化装置 改訂』水原紫苑著  : 平凡社

桜の花を特別に美しいと感じるのはわたしたちにとって自然の情緒なのか、そのように刷り込まれただけではないのか。記紀・万葉から今世紀の桜ソングまでを取り上げ、これまであえて誰もふれえなかった問い=タブーに果敢に挑んだ異色の日本文化論。近現代の章を改訂した決定版。

BOOKPLUSより

桜守のはなし

『桜守のはなし』 佐野藤右衛門作 : 講談社

日本全国を飛び回り、傷ついた桜の手当てをし、桜の新種をさがす佐野さんは、「桜守」とよばれています。桜のいのちを守るしごととは―。桜守のしごとをみやすい写真で紹介。

BOOKPLUSより

次に、連想図から3人の人物を紹介します。

西行

「西行像」(MOA美術館所蔵)

西行
さいぎょう
1118−1190
平安後期-鎌倉時代の歌人,僧。
元永元年生まれ。佐藤康清の子。北面の武士として鳥羽(とば)上皇につかえ,23歳で出家。生涯の大半を奥州から九州までのさすらいの旅ですごす。花と月の歌がおおく,独自の歌風は飯尾宗祇(そうぎ),松尾芭蕉(ばしょう)らに影響をあたえた。「新古今和歌集」に94首がおさめられている。文治(ぶんじ)6年2月16日死去。73歳。俗名は佐藤義(憲)清(のりきよ)。歌集に「山家(さんか)集」など。

日本人名大辞典より

説話や伝説で有名な歌人西行氏がサクラとどのような関係があるかというと、吉野山をはじめ多くの桜の和歌を読んでいます。

咲きそむる花を一枝まづ折りて昔の人のためと思はむ

咲き始めた桜の枝をひとまず手折って、これは昔の人へ手向けにするためと思いましょう。

西行(コレクション日本歌人選 048)より

この歌は桜が大好きな自分のためではなく、「昔の人」にまず手向けようと詠っています。では「昔の人」とはどのような人でしょうか。『山家集 ; 聞書集 ; 残集(和歌文学大系)』では、「(前略)今はなき人のために手向けようと思う。」と訳されています。また、『西行(コレクション日本歌人選 048)』では、西行氏の他の歌からも考えて、「(前略)恋人といった存在ではなく、彼が追慕し、自由に山桜を愛でることのできた古人のことであると考えることができる。(後略)」と解説しています。
ちなみに、西行氏の時代の桜は、今のようにソメイヨシノではなく、(ソメイヨシノは江戸時代末期に生まれ、明治時代初めに広まった)花や葉などに個性がある山桜でした。そのため、こんな歌も詠んでいます。

吉野山去年のしをりの道かへてまだ見ぬ方の花を尋ねん

吉野山の去年つけておいた枝折の道を変えて、まだ見ていない方角の花を尋ねよう

山家集 ; 聞書集 ; 残集(和歌文学大系)より

去年とは違う道に行ってまだ見ていない桜を見に行こうというこの歌は、当時は色々な山桜が咲いていたことに関係があるのかも知れません。
しかし、桜が違えでど、人々が桜を愛でるのに集まるのは古今変わらないようで。

花見にと群れつつ人の来るのみぞあたら桜の咎には有ける

花見に人が大挙してやってくることだけが、あえていえば桜の唯一の罪であり、残念に思うべきことである。

西行(コレクション日本歌人選 048)より

「あたら」とは良いものを持っているのにそれが発揮できない状態を意味します。花見の人が大勢やってきて騒がしいのは、桜の魅力を半減してしまうが、それは桜自身が招いた罪であると詠っているのです。
『西行(コレクション日本歌人選 048)』では、「(前略)桜をこよなく愛するために、邪魔されずに愛でたいという気持ちが満たされないことを、桜の「咎」にしようとする奔放な振る舞いは、西行を非常に親しみやすい人物にするものでもある。」と解説しています。
そして、西行氏の最も有名な歌と言ってもよい歌がこれです。

願わくば花の下にて春死なんその二月の望月のころ

願いが叶うなら、時は春、満開に咲いている桜の花の下で死にたい。釈迦がこの世を去った二月の満月のころに。

西行(コレクション日本歌人選 048)より

西行氏の歌といえばこの歌を思う人が多いのではないでしょうか。亡くなるときはこうありたいものだと歌に願いを込めた西行氏は、文治6年(1190年)2月16日にこの世を去りました。

川路聖謨

江戸時代後期の武士。
享和元年4月25日生まれ。幕臣。勘定奉行兼海防掛となり,安政元年伊豆(いず)下田で日露和親条約に調印。5年日米修好通商条約締結の勅許をもとめる老中堀田正睦(まさよし)の京都行きに随行。将軍継嗣問題で一橋派に属して失脚したが,のち外国奉行となった。慶応4年3月15日ピストル自殺。68歳。豊後(ぶんご)(大分県)出身。本姓は内藤。通称は三左衛門。号は敬斎,頑民斎。

日本人名大辞典より

日露和親条約に調印した江戸時代の幕臣、川路氏とサクラの関係は、どういったものでしょうか。
川路氏は、弘化3年(1864年)に奈良奉行に任じられます。川路氏は「奈良に貶されし」といって不満を漏らしていたようです。

中心近くに「御奉行所」とあるのが奈良奉行所。
『和州奈良之絵図』出版者:ゑづ屋庄八 元治1年[1864]

この転出は、老中水野忠邦が失脚し、重用されていた川路氏も左遷されたとも考えられていますが、当時の奈良は博奕などの軽犯罪、少年犯罪が横行し、奈良奉行も内部の規律は乱れ、改革必要とされていたところ、佐渡奉行での実績がある川路氏の手腕が見込まれたとの考えもあるそうです。
そして、川路氏は江戸を出立した日から5年余りの奈良奉行時代に実母宛にしたためた日記『寧府紀事』があります。日記には奈良の歴史や風土に囲まれている毎日の生活について書かれています。この『寧府紀事』をテキストに古文書の読み方を学ぶ「古文書超入門講座」という動画を奈良県立図書情報館noteで公開しています。是非ご覧ください。

川路氏が行った様々な改革のなかに、植樹・植林事業があります。そのなかに東大寺・興福寺への植樹があります。当時の奈良は名所・旧跡は衰微しており、特に興福寺は享保2年(1717年)に炎上して大半の堂宇を失っていました。そこで、川路氏は春には桜、秋には紅葉を楽しめる名所を両寺を中心に復興することが最善の策として、まず率先して両寺に桜と楓を奉納、その後社寺や民の賛同を得て、わずか2ヵ月余りのうちに数千本の桜・楓の苗木が集まったとされています。それらを両寺の境内、奈良奉行所内、高円、佐保地域などにまで植樹しました。
現在は、当館近くの佐保川の桜並木の上流に川路氏の名がついた「川路桜」が残っています。そして奈良では、川路聖謨といえば、下田で日露和親条約に調印した幕臣ではなく、「桜奉行」のイメージが強いそうです。

初音ミク

クリプトン・フューチャー・メディアが2007年8月に発売した「歌声」の音声ファイル作成ソフトおよびそのキャラクター。ヤマハの歌声合成技術であるVOCALOID(ボーカロイド)2が使われ、パソコンで歌詞と旋律を入力することで、テレビアニメなどに出てくる少女(初音ミク)が歌っているような合成音の楽曲を作成できる。動画投稿サイトなどインターネット経由で人気が高まり、各種商品やプロジェクトの広告宣伝に採用されるなど、幅広い支持を得るようになった。

現代用語の基礎知識より

初音ミクは、2009年からライブがはじまり、アメリカでは2011年5月にTOYOTA USAのトヨタ・カローラの広告に起用され、BBCの東京2020オリンピックテーマソングにも使われています。また、ニコニコニュースによりますと、2007年から2020年までニコニコ動画に33万曲以上の初音ミクオリジナル楽曲が投稿されているというのこと。このような大人気なボーカロイドとサクラとの関係は、まず初音ミクの曲に「千本桜」という多くのアーティストがカバーした人気曲があることと、春のモチーフである桜が全体にあしらわれている初音ミク、「桜ミク」がいるとのことです。

また、青森県弘前市で開催される弘前四大まつりのひとつである春祭り「弘前さくらまつり」では、この桜ミクが公式応援キャラクターとなり、弘前さくら応援ソング 「「101回目の桜」feat.初音ミク」という曲でコラボをしています。


展示の様子

展示している本のリストは、こちらから!
*ご好評につき、資料を追加しました(2022年4月1日)。

このように、古今問わずサクラは人々を魅了して、人々はサクラを愛でてきました。そこで、皆さんが魅了され、愛でた、

「サクラ」の写真、募集します。

時期、場所は問いませんので #サクラBBB で写真と一緒にTwitterでツイートしていただければと思います。BBBの展示で使わせて頂くかも知れません。(撮影場所(都道府県名)も書いて頂けると助かります。)
もちろん、佐保川の桜並木でもO.K.です。

「サクラ」の本、募集します。

もちろん、毎回恒例となった図書の募集もnoteで行います。
みなさんが「サクラ」と聞いて連想する本を、教えてください!
館内の展示コーナーにて紹介させていただきます!
(展示できない場合もあります……そのときは、ごめんなさい!)

例えば、こんな感じに


街の灯 (文春文庫)北村薫著
文庫のジャケットがきれいな桜の絵

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

参考資料
日本大百科全書(ニッポニカ)
日本国語大辞典
デジタル大辞泉
日本人名大辞典
西行(コレクション日本歌人選 048)
山家集 ; 聞書集 ; 残集(和歌文学大系)
川路聖謨(人物叢書)
ならら : 大和路, 2021.7月号
ニコニコニュース「ニコニコ動画的ボーカロイドの歴史を“970,686本の投稿動画”とともに振り返ってみた(2020年12月8日 (火) 11:55)」
https://news.nicovideo.jp/watch/nw8598369
ベネッセ教育情報サイト「桜の歌人・西行。桜になにを見ていた?」https://benesse.jp/kyouiku/201503/20150320-6.html

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