キーワードから広がるブックトーク2021第1回「家庭料理」【動画あり】
キーワードから広がるブックトーク第1回「家庭料理」
こんにちは、奈良県立図書情報館の藤本です。
2021年7月23日、誠光社店主の堀部篤史さんをコーディネーターにお迎えし、「キーワードから広がるブックトーク第1回」を開催しました。
ブックトークとは、テーマに沿ってさまざまなジャンルの本を紹介すること。第1回のテーマは「家庭料理」です。
図書館では、本は日本十進分類法という分類に基づいて並んでいることが一般的です。たとえば今回のテーマ「家庭料理」であれば、「596」(食品・料理)に分類されることが多いです。けれど本って、必ずしも一つの分類に決めきれるわけじゃないですよね。
ブックトークでは、普段はばらばらの棚に収められている本たちをキーワードを通じて結び、見えてくるものを共有します。
堀部さんは「家庭料理」は社会、政治、環境、歴史などあらゆるテーマにつながっているとおっしゃいます。
新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛が続き、自宅で料理をする時間も増えている今、「家庭料理」についてじっくり考えてみませんか!
トークで取り上げられた本は、こちら。
『恥ずかしい料理』梶谷いこ著/平野愛写真愛写真
『ナチスのキッチン』藤原辰史
『縁食論』藤原辰史
『家事の政治学』柏木博著
『顧みれば』 ベラミー著
『ユートピアだより』ウィリアム・モリス著
『戦下のレシピ』斎藤美奈子著
『一銭五厘の旗』花森安治著
『珈琲の建設』オオヤミノル著
『小林カツ代伝』中原一歩著
『わが道をゆくワンタン』小林カツ代
『「家庭料理」という戦場』久保明教著
『ごちそうさまが、ききたくて。』栗原はるみ著
『ファッションフードあります』畑中三応子著
『るきさん』高野文子著
『南インドキッチンの旅』齋藤名穂著
『亡命ロシア料理』P・ワイリ, A・ゲニス著
『一汁一菜でよいという提案』土井善晴著
書名から家庭料理との関連が窺える本もあれば、一見家庭料理とのつながりが見えない本も。
動画
ブックトークの様子は、一部こちらからご視聴いただけます。
動画内で流せなかったYoutubeの映像はこちらでご覧ください。
Frankfurter Küche - Ernst May - Margarete Schütte-Lihotzky
https://www.youtube.com/watch?v=5-DnyOZzyTc
以下でも当日の内容を、ご紹介したいと思います!
『恥ずかしい料理』
「この本を作ったから、テーマを家庭料理にしようと思った」という1冊目。誠光社から出版されています。
著者は梶谷いこさん(https://iqcokajitani.com/)。
普段は会社員として働いてらっしゃいますが、ZINEをたくさん作られています。ZINEの1冊「家庭料理とわたし」を読まれた堀部さんが「おもしろいな」と同時に「家庭料理って何だろう?」と思われたことがきっかけで始まった1冊だそう。
ここで堀部さんから「家庭料理ってどういう料理か分かりますか?」という問いかけが。うーん、「肉じゃが」……?具体的な料理は思いつくけど、改めて定義しようと思うと難しい……「家庭で食べられる料理」?じゃあ家庭ってなんでしょう?
「家庭料理に定義はない、それぞれの家の物語がある。」と、堀部さん。
それぞれの家庭には、いっぱい事情があります。お母さんが料理が嫌い、忙しい、家族みんなおいしいものが好き、経済的状況、地域性、歴史、時代感覚、家族構成……一般に家庭料理と言われて連想されるもの、たとえばハンバーグやカレーはどこにでもありますが、その料理にいたる背景が全部違う。「こういうふうにしてできた」、ストーリーが存在するのが家庭料理である、と。
なので、「(家庭料理って)なんだと思いますか?」という問いは、質問の設定そのものが間違っている、ということになる……なるほど!
『恥ずかしい料理』では7組の家庭にお邪魔し、ご本人たち自身は何でもないと思っているけれど、外から見ると「そのうちらしさ」を感じる料理を取材。その背景にあるストーリーに迫った本です。
ところで、どうしてこのタイトルなのでしょう?「恥ずかしい料理」と聞くとどこか露悪的で、ダメな料理、見せるのが「恥ずかしい」料理のことを連想してしまいますが、実はこれはレトリック。
最近はSNSに自分が食べた「素敵なもの(=恥ずかしくない料理)」をアップすることがメジャーになりました。SNSがなかった頃は見えなかった、他人が食べている素敵なものが可視化されてしまったことで、それ以外のもの、日常生活で自分が食べているものがすごくつまらないものに思えてしまう、そんな現状に一石を投ずることを意図したタイトル、でしょうか。
職場や学校では、どうしても経済原理や資本主義競争にさらされます。
家庭はそうした競争から逃れられる、安心できる場所のはずですが、生活に点数を付けるかのようなSNSの「いいね!」は、逃れたはずの競争に巻き込むかのよう。
人に見せない料理は恥ずかしいものじゃない。特殊なもの、ハレなものだけを礼賛するのではなく、人に見せない99%の生活にすごく豊かなストーリーがあって、そういうものを肯定することが生活を守ることにつながる。
特別なものを礼賛するのではなく、日常を肯定し、名前のない数々の料理にストーリーを見出す、という本です。
『ファッションフードあります』
ファッションフードとはいわゆる「情報食」。たとえばティラミス、最近だとタピオカをはじめ、SNSにアップされる食べ物の多くはファッションフードと言えそう。
味や栄養素、空腹を満たすためではなくそれを食すことが社会参加になるような、はやりの食べ物の変遷を描いた本です。
ファッションフードは戦前からありました。たとえば「スパゲッティじゃなくてパスタ」、「アルデンテは~」など、「本場風がかっこいい」という風潮、確かに覚えがあります(今はもっと複雑ですよね、昔ながらのナポリタンが一周回っておしゃれ、とされたり)。
そういうものは、自分で選択しているようで、選択させられているということが考えられるのではないか、と堀部さんはおっしゃいます。
ここで堀部さんが挙げられたのは『るきさん』。バブル期に女性誌Hanakoで連載されていた高野文子さん作の漫画です。主人公るきさんの、切手を集めたり、休日は図書館に行ったり、現代から見れば普通の、つつましい生活が描かれています。しかしバブル時代、Hanako誌面はとても華やか。そんな誌面の中ではるきさんの生活は浮いており、状況に対する無言の抵抗にも読める……単行本では伺えない、雑誌という単位でみたからこそ読み取れるメッセージです。
るきさんの時代にはHanakoのようなメディアが担っていた付加価値の発信は、SNSの登場により個人によってなされるようになりました。
ファッションフードががもてはやされる中で、なんでもないものは本当に価値がないのか?恥ずかしいのか?そんなことはないんじゃないか?と問いかける本。
ちなみにこの本、2013年に単行本、2018年に文庫本で出版されています。当館が所蔵する単行本版は、非常に凝った「ファッショナブルな」作り。まるでレストランのメニューのような目次に、カラフルな本文など、装丁の面からも実物を手に取っていただきたい1冊です。
『南インドキッチンの旅』
著者の齋藤名穂さんは建築家。展覧会の空間デザインなどを手掛けてらっしゃいます。
非常に旅慣れていてお料理も得意な方ですが、南インドにあるタラブックスのゲストハウスに滞在した際、キッチンの道具、構造、置いてあるスパイスが違いすぎて、使い方が全く分からなかったと言います。
このことをきっかけに、齋藤さんはタラブックススタッフの知人の家に訪問することに。その記録が本書です。
地べたで料理をすることになる道具があったり、ベランダで雑穀が入ったボウルを日干ししたり(蟻が入るから!)……道具や環境によってキッチンの概念が変わる、ということが実感されます。
こういった今まで思いもしなかったキッチンの可能性に触れると、自分たちの生活の段取り、雰囲気も変わるんじゃないか?ものや環境が自分の行動や考え方を規定してることはたくさんあるんじゃないか?ということを気づかせてくれる本です。
*残念ながら当館に所蔵はありません
結論
・家庭料理を考えることは社会との関わりを考えること
・どういう文脈であれ、そこに主体があるのかどうか、自分たちの暮らしであるかどうか。国のためじゃない、消費のためでもない、人に見せてほめられたいからでもない、作ることや食べる自体が楽しいことが大切
・キッチンは閉鎖的な、主婦が労働するためだけの空間ではない
連想してみました。
「家庭料理」というキーワードから司書も連想し、堀部さんの取り上げられた本と合わせて、図にしてみました~
コーディネーター堀部篤史さんのお店、誠光社のHPはこちら。
先日オープンした「編集室」では、『恥ずかしい料理』の著者梶谷いこさんのエッセイ「和田夏十の言葉」が連載されています。
いかがでしたか?
私がブックトークを通して得た「家庭料理」への解像度の高まりが、少しでも共有できていると嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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