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それでも母親になるべきですか【#図書館員の気になる一冊】

 アメリカの大統領選挙関連の報道をみていると、21世紀の現在において、女性候補者に母親の経験があるかが取りざたされることに驚かされます。申し分のない学歴、キャリアを手に入れた女性が大統領候補になったとき、「母親」であることが求められるのはなぜなのでしょうか。
 子どもをもたない著者は、子どもをもつ女性ともたない女性との溝を感じ、本書を執筆しました。当初の目的は、歴史上、母親にならなかった女性を取り上げ、価値や功績を評価することにあったといいます。女性が子どもをもたなかった理由を、資料から丁寧に分析した結果、自発的に選択した例は少数であり、多くが様々な社会的要因によるものでした。また核家族の創出によって、家庭内の仕事の分業が起こり、育児が女性の仕事となったことも示されます。
 つまり母親になるかどうかは社会的な問題であり、そもそも核家族内の母親の役割は歴史的につくり上げられた仕事で、普遍的な形態ではなかったのです。
 現在の母親という価値観が普遍的ではないと気づいたとき、著者は新たな価値観として「マザリング」という概念を提唱します。血縁関係の母親だけが「母親をする」のではなく、親戚や友人、社会的なコミュニティが「母親をする」ことで、現在の溝や分断が解消されるのではないかと。
 価値観の多様化が進む中では、自分と異なる考えは受け入れがたく、理解できないものとして拒否してしまいがちになります。しかし、本書のように冷静な分析を重ねることは、今ある価値観を見つめ直し、異なる立場を受け入れるきっかけになるのかもしれません。

(いち まいこ)

『それでも母親になるべきですか』 ベギー・オドネル・ヘフィントン著 新潮社 2023.11

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