⒊大島真寿美『ピエタ』×テレマン室内オーケストラ ご来場ありがとうございました!
コンサート&クロストークにご来場いただいた皆様、ご参加ありがとうございました。ご参加頂けなかった方、当館ではこれからも様々なイベントや図書展示を行う予定ですので、これを契機にお越しいただける日をお待ちしております。なお、関連図書展示は8/9(月)まで行っておりますので、ご都合がよろしければ是非ご覧ください。
3つめのキーワードは、‘カーニヴァル’です。
カーニヴァル(謝肉祭)とはキリスト教の祝祭の一つで、四旬節(キリストが断食をした期間)を前に、飲めや歌えとお祭りをすることをいいます。 もともとは1週間程度だったカーニヴァルですが、ヴェネツィアにおいては期間も豪華さもどんどんと増してゆき、最終日には花火まで挙がる様が『ピエタ』作中にも登場します。そしてもう一つ忘れてはならないのが、仮面です。ヴェネツィアにおいて、カーニヴァルの期間中に仮面をつける習慣がいつから始まったものか、はっきりとはわかっていませんが12世紀頃には記録にも登場しているようです。なぜ、仮面をつけるようになったのか?これもはっきりとはしていませんが、複雑な政治情勢や経済上の利害関係に支障を来さずにカーニヴァルを楽しめるように、との説があります。作中でも、主人公を手助けする男性が一度も仮面を外さなかったことや、物語の核となる女性との出会いの場面で、二人とも仮面をつけたままであることなどが、この小説の中のヴェネツィアをどこか異世界のような雰囲気に仕立てているように感じます。
ところで、仮面と聞くと皆さんはどんなものを思い浮かべておられるでしょうか?作中の貴族女性が持っていたような、金箔に色とりどりの宝石をちりばめたものとまではいかずとも、煌びやかで派手なものと思う方が多いのではないでしょうか。もちろん、実際のカーニヴァルではそれらが大多数ですが、時折その中にぎょっとさせられる異形の仮面も交じっています。白い面に丸く穿たれた二つの目、口元はまるで鶴やペリカンのように長く伸びたくちばし。全身を黒いマントで覆い、長いステッキを持ったその仮装は‘ペスト医者’と呼ばれるものに扮しています。14世紀の半ばを皮切りにヨーロッパ全土で猛威を振るったペストは、流行するたびに多大な死者を出してきました。一説にはヨーロッパの全人口を1/3にまで追い込んだとされるほどです。その脅威は1575年から2年に亘ってヴェネツィアをも襲い、5万人を超える死者をもたらしました。この被害を少しでも防ぐべく考え出されたのが先述した服装です。くちばしには感染を防ぐための薬剤を含ませた綿が詰められ、長いステッキは患者を診察する際に用いられました。感染原因が突き止められていなかった当時、とにかく患者には触れないこと、空気感染への懸念から可能な限り身を守ることを徹底した結果、このような防護服(?)が生まれたのです。ある意味では、復活・再生を祈念するカーニヴァルに最もふさわしい仮装といえるでしょう。
最後に、『ピエタ』作中より一言。
素顔をさらしていてはカーニバルの興が削がれるよ、(中略) そんな突拍子もないことも、カーニバルの夜なら不思議はなかった。カーニバルの夜は誰しもが少し浮かれ、おかしなことをする。