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図書館員の気になる一冊

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奈良県立図書情報館に所蔵されている本の中から、図書館員が気になる1冊を紹介します。 (こちらの記事は、奈良県立図書情報館メールマガジン「Lib Info NARA -奈良県立図書… もっと読む
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2023年1月の記事一覧

「氏名の誕生─江戸時代の名前はなぜ消えたのか」【#図書館員の気になる一冊】

 「人の名は生涯を通じて一つ」「名前は親が思いを込めて決めたかけがえのないもの」という常識は、いつ頃できたのでしょうか。また、「(苗字を公称できなかった百姓・町人などが)明治政府によって苗字を名乗る自由を得た」という理解は正しいのでしょうか。この本の著者は、私たちがあたり前のことと思い込んでいる現在の「氏名」の常識が形づくられていく近世~近代移行期の歴史を、ていねいに説明してくれます。  著者によれば、江戸時代には、年齢や地位の上昇に伴い改名するのは、あたり前のことでした。ま

「室町は今日もハードボイルド:日本中世のアナーキーな世界」【#図書館員の気になる一冊】

 著者がもつ中世の人びとのイメージは、「道徳」的ではないこと、なのだそうです。ずいぶんとひどい言い方ですが、そんな気がしてしまうくらい、当時の人びとの行動はとてもパワフルなものでした。なにしろ、本書に挙げられている事例をみてみれば、落書きや呪詛で済めばまだましな方で、大河ドラマにも登場した「うわなり打ち」、果ては海賊に湖賊までもが出現するありさまです。ここまでくると、もはやそれはバイオレンスではあるまいか、という感じがしますが、いずれも中世の古文書に実際に記された事件ばかりで