マガジンのカバー画像

図書館員の気になる一冊

45
奈良県立図書情報館に所蔵されている本の中から、図書館員が気になる1冊を紹介します。 (こちらの記事は、奈良県立図書情報館メールマガジン「Lib Info NARA -奈良県立図書… もっと読む
運営しているクリエイター

2022年12月の記事一覧

「土砂留め奉行─河川災害から地域を守る」【#図書館員の気になる一冊】

 奉行が村にやって来る。あなたなら、どう、もてなしますか。  今回ご紹介するのは、江戸時代、水害の原因となる山間部の土砂流出を防ぐため、村々を見廻った土砂留め奉行(どしゃどめぶぎょう)についての本です。江戸時代は、今よりも木々が生い茂る自然豊かな時代だと思っていましたが、本書によると、そうでもなかったようです。  当時の農業は、山野の草芝や木の葉を肥料としていました。この方法では、耕地の数倍から10倍の草地が必要だったそうです。肥料や牛馬の飼料、燃料用の草木を求めて森林破壊は

「戦後日本の文化運動と歴史叙述:地域のなかの国民的歴史学運動」【#図書館員の気になる一冊】

 1950年代前半、「村の歴史・工場の歴史」をスローガンに、国民的歴史学運動が展開されました。これは共産党による引回しの側面を強く持っていました。加えて当時武装革命路線を取り、後に党を除名されていく面々(概ね所感派、後の親中国派の系譜で、代表的人物としては、ぬやま・ひろしこと西沢隆二)の領導によっていました。  そのため、マルクス主義の方法論に批判的な歴史家はもちろん、戦前の日本資本主義論争における講座派の流れを汲み、その後も長く影響力を保ち続けた共産党員及びシンパの歴史家で