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図書館員の気になる一冊

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奈良県立図書情報館に所蔵されている本の中から、図書館員が気になる1冊を紹介します。 (こちらの記事は、奈良県立図書情報館メールマガジン「Lib Info NARA -奈良県立図書… もっと読む
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記事一覧

私と世界をつなぐ、料理の旅路:14人の「私が料理をする理由【#図書館員の気になる一冊】

 ここ数年、コロナ禍で海外に行くことが難しかった中、日本で流行した海外料理がたくさんありました。例えばマリトッツォや鹹豆漿(シェントウジャン)など、名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。今では様々な海外料理を日本で味わうことができますが、ひと昔前の日本において、近年話題になったような海外料理は、今ほど身近ではありませんでした。その中で、生きていく道として日本料理ではなく、海外料理を選んだ14人の女性たち。  この本は14人がどうして料理の道を進んだのか、そしてど

やりなおし世界文学【#図書館員の気になる一冊】

 本は1年間に約7万点も出版されている。次から次へ新たな本が出るので、一昔前に出た膨大な数の文学作品に手を伸ばす機会は正直多くはない。また、いわゆる「名作」と呼ばれる作品を読んだものの「よく分からなかった……」という感想に終わってしまった経験も、文学作品から遠ざかっている理由のひとつかもしれない。『やりなおし世界文学』は、芥川賞受賞作『ポトスライムの舟』や本年(2024年)の本屋大賞にノミネートされた『水車小屋のネネ』の作者・津村記久子氏が、国内外の文学作品92作を読み、その

カフカ素描集【#図書館員の気になる一冊】

 昨年2023年はカフカ生誕140年、今年は没後100年という年です。カフカと聞くと、『変身』や『城』、『審判』といった不条理や非現実的な作風の小説を思い浮かべる方も多いと思います。小説の翻訳集や全集の他、いくつかの出版社の文庫本にも代表作が収められていますし、現在も新訳が刊行されるなど日本でも一定の読者層が存在しているようです。  20世紀の初めのチェコのユダヤ人作家。病弱ながらサラリーマンをしながら、文学作品の執筆を続けていた人です。ところで、カフカは親友のマックス・ブロ

英語の路地裏 : オアシスからクイーン、シェイクスピアまで歩く【#図書館員の気になる一冊】

 著者はシェイクスピアやフェミニズム批評、芸術の受容史等を専門とする文学者です。『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』という刺激的なタイトルの批評書が2020年「紀伊国屋じんぶん大賞」に選ばれており、そちらをご存じの方もおられるかもしれません。本書は、著者が演劇から小説、ロックミュージック、映画にいたるまで、その豊富な知識をもって、英語が楽しくなるようなちょっとした「路地裏」や「脇道」の入り口を覗かせてくれるエッセイです。  目次を見るだけでも、シェイクスピア、イギリスの児童文学

シミュレート・ジ・アース:未来を予測する地球科学【#図書館員の気になる一冊】

 未来予測というとSF世界のように聞こえるかもしれませんが、社会のいたるところにその成果が溢れています。例えば「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が指摘するように、気温上昇が1.5度を超えると異常気象のリスクが高まります。国の予測によれば、南海トラフ地震や首都直下地震が30年以内に約70%の確率で発生する可能性があります。また私たちが日常的に目にする天気予報も、地球の未来を予測して対処しようとコンピュータ内にもう一つの地球をつくり、シミュレーションを行って得られた成果

色のコードを読む : なぜ「怒り」は赤で「憂鬱」はブルーなのか【#図書館員の気になる一冊】

 サブタイトルにあるように、怒りを色で表すとすれば赤、「ブルーな気分」と言われれば少し憂鬱な感じを受けます。冠にセピア色と付けばどこかノスタルジックな空気が漂い、熱狂的なファンがアーティストに向けるのは黄色い歓声です。  色を使って感情などの形のないものを表現する例は多くありますが、用いられる色や、そこから受けるイメージは万国共通なのでしょうか。  本書イントロダクションでは、ドイツの文豪ゲーテが『色彩論』のなかで、色は純粋な科学現象ではなく、むしろ主観的な現象なのだと訴え色

種をあやす : 在来種野菜と暮らした40年のことば【#図書館員の気になる一冊】

 本書は、長崎・雲仙の地で農業を営む著者が、長年にわたり種採りを行ってきたこれまでのことを振り返り、これからの農業や野菜についての思いを綴ったものです。  「種採り」は現在の一般的な農業では普通のことではありません。なぜなら、現在流通する野菜のほとんどがF1種と呼ばれる種で作られているからです。F1種とは、品種改良され、一代でその一生を終える種のこと。種は採れず、採ったとしても二代目は上手く育たない。それと引き換えに、人間の口に合うよう味や香りの再現性を上げているのです。  

ポテトチップスと日本人:人生に寄り添う国民食の誕生【#図書館員の気になる一冊】

 ポテトチップスを食べたことがない人は少ないのではないでしょうか。定番の塩味やコンソメ味から、チョコレートがかかって甘さと塩味の両方を楽しめるものなど、様々な味のバリエーションがあります。サブタイトルにもあるように、“国民食”と言っても過言ではないほど、日本ではポピュラーな食べ物だと思います。本書は、そんなポテトチップスの誕生から、いかに日本国民に受け入れられ、現在の地位を得るまでになったのかを、当時の資料やメーカーへのインタビューなどを織り交ぜながら丁寧に紐解いています。

防災アプリ特務機関NERV : 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年【#図書館員の気になる一冊】

 2010年2月、ツイッター(現:X)上に気象警報をツイートするアカウント「特務機関NERV」が登場しました。特務機関NERVとは、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン(通称エヴァ)」の主人公が所属する組織名。しかし、これは公式アカウントではなく、エヴァ好きの大学生・石森大貴氏が遊びで始めたものでした。それがやがて本気のアカウントに変わり、2019年にはスマホアプリ「特務機関NERV防災」をリリースするなど、日本屈指の災害・防災ツールへと進化していきます。  転機は、東日本大震災で

陰陽師とは何者か:うらない、まじない、こよみをつくる【#図書館員の気になる一冊】

 突然の年越しに、当時の人は大慌てだったことでしょう。  今から151年前、明治5年(1872)の11月9日、政府から改暦の布告が出されました。それまでの太陰太陽暦を太陽暦に改め、12月3日を明治6年1月1日とする突如の年明けが申し渡されたのです。本書によると、このことは、現在のカレンダーにあたる「暦」をつくっていた人々にも知らされていなかったようです。すでに刷り終えた暦の在庫を大量に抱え、彼らは莫大な損失をこうむりました。その中には、かつて陰陽師だった人たちも含まれていたよ

おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った:世界ことわざ紀行【#図書館員の気になる一冊】

 今回取り上げる本のタイトルは、『おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った』。え?猫がかわいそう…、という話ではありません。これは「意外なところに道がある、解決策はひとつではない」という、フィンランド語のことわざです。言語にまつわるおもしろいエピソードが好きな著者が、海外ルーツの人や翻訳家などに会うたびに、ことわざを紹介してもらい、雑誌のコラムに書いていたものを、1冊にまとめたのが本書です。  タイ語の「表面に振りかけたパクチー」、ズールー語(南アフリカ)の「鼻が邪魔だと

月夜の黒猫事典 : 知られざる歴史とエピソード (ひみつの本棚シリーズ)【#図書館員の気になる一冊】

 黒猫と聞くと、どういったイメージをお持ちでしょうか。昔の日本では不思議な力があると考えられていたようです。『日本国語大辞典』によると、「黒猫」は、「全体の毛の色が真黒な猫。江戸時代には、これを飼えば労咳(肺結核)が治るという俗信があり、恋の病にも効験があるといわれた。」とあります。自由気ままで神秘的な猫の中でも、黒猫は特別な存在だったことがわかります。日本以外の国々でも、黒猫には特別な力があると考えられていました。そのことがわかるのがこの本です。  本書は、世界の黒猫にまつ

ニュースなカラス、観察奮闘記【#図書館員の気になる一冊】

 カラスは、時に私たちの思いもかけないようなことをして、世間を驚かせます。それらはしばしば新聞やテレビのニュースでも扱われ、その度に人々の関心を呼んできました。本書は、そんな「ニュースなカラス」に焦点を当て、過去にニュースになったことのあるカラスの興味深い行動の数々について、鳥類学者の樋口広芳氏が、自身の観察・研究をもとにまとめたものです。  この本には、いくつかの「ニュースなカラス」が登場しますが、中でも大きく取り上げられているのは、神奈川県の弘明寺公園で目撃された「水道ガ

Nの廻廊 : ある友をめぐるきれぎれの回想【#図書館員の気になる一冊】

 本書を知った際には、その取り合わせに「へっ???」となりました。昭和戦時期を中心とする地道で重厚なノンフィクションを、冷静な筆致で記していく著者。一方、学生運動のリーダーから経済学者を経て、けれん味のある保守派在野言論人へと転じた西部邁。それぞれの著作には、そこそこ親しんできたつもりでしたが、あまり接点があるようには見えなかったからです。  ふたりが出会ったのは、中学生のころとか。著者の自伝『風来記 わが昭和史(1)青春の巻』(平凡社、2013)を読み返してみると、昭和20