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「ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ」【#図書館員の気になる一冊】

 芸術大学の写真学科を卒業した後、高齢者専門の弁当配達のアルバイトをしていた著者は、ある日バイト先の店長から「お客さんの写真を撮ってみたら?」と勧められる。その言葉を受けてひとまずカメラを携えて配達に出るようになったものの、お年寄りたちの生活状況に面食らい、なかなかシャッターを切ることができない。半年後にはようやくレンズを向けられるようになり、カメラを通してのコミュニケーションを楽しむことができるようになるが、一方で大きな葛藤を感じることに。
何のために撮影しているのか、これらの写真を発表することにどんな意味があるのか──葛藤、罪悪感にぶつかりながら、考え抜き、発表された作品《弁当 is Ready》をもとに編まれたのがこの写真集である。
 被写体となっているのはお客さんである高齢者や彼ら彼女らの暮らす部屋、部屋の中にあるものたち。楽しく話しながら撮られた様子が思い浮かぶような写真がある一方で、「この写真を撮ったとき、一体どんな気持ちだったのだろう」と戸惑いを感じさせられる写真──たとえば、雑然とした床にお年寄りが倒れこんでいるように見える写真──もある。写真を目にしたときに浮かんだ感情に目を凝らしてみてほしい。写真を見る側にも葛藤をもたらす写真集。

(ふじもと あきこ)

『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』福島あつし著 青幻舎 2021.8

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