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大江戸虫図鑑【#図書館員の気になる一冊】

 昨今、多種多様な昆虫図鑑が出版され、昆虫たちの姿は高精細な写真に収められています。では、一昔前の書物に描かれた昆虫たちはどのような姿をしていたのか、ご存じでしょうか。本書は江戸時代の書物に出てくる昆虫をピックアップし、彼らと当時の人々の生活文化とのつながりを、その生態の解説を添えて紹介した1冊です。
 本書を広げると、まず精密に描かれた昆虫たちの挿絵に目を惹かれます。見開き左側に描かれた昆虫たちは、現代の昆虫図鑑にある写真ほど高精細ではありません。しかし、それぞれ体の形状が正確に捉えられており、その姿は躍動感と共に、どこか手書きの温かさも帯びているように感じます。そして、見開き右側の解説を読んでみると、あまり知られていない昆虫たちの生態や当時の人々の生活と昆虫たちとの関係に驚かされる場面もしばしばです。
 中でも特に私が印象に残っているのは、p.139で紹介されているカマキリやイナゴたちが描かれた『広恵済急方(こうけいさいきゅうほう)』です。この書物、一見すると昆虫図鑑のように見えます。しかし、解説を読んでみると、実は江戸時代当時の救急医療辞典なのです。当時の人々は彼らを塗り薬や貼り薬の素材として捕獲していました。このように本書は、昆虫が描かれた旅行ガイドや役人の業務日誌など多様な資料が紹介されており、当時の書物のユニークさがうかがえます。
 これからの季節、虫たちはどんどん活動的になってきます。本書を読み終えたとき、夜聞こえてくる虫たちの鳴き声や、田園を飛び交う風景が今よりも少し身近で親しみ深いものに感じられるかもしれません。

(だいどう ゆうじ)

『大江戸虫図鑑』西田知己著 東京堂出版 2023.5

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