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描かれた中世城郭:城絵図・屏風・絵巻物【#図書館員の気になる一冊】

 日本の城というと、そびえ立つ天守閣をイメージしがちですが、天守閣が造られ始めたのは、戦国時代。鎌倉時代や室町時代の城は、かなり簡素な構造をしていました。バリケードや堀による防御力の増強を、総じて「城郭を構える」と称しており、戦闘時に臨時で構築されたり、武士の住宅が戦時に城郭として利用されたり、寺院が城郭化したりしていたため、痕跡が残りにくいという特徴がありました。そんな城郭をどのように知るのか。本書は、その手掛かりを絵画に求め、中世城郭が描かれた屏風や絵巻物をまとめたものです。
 掲載されている絵画史料は、『一遍聖絵』や『洛中洛外図屏風』などの美術的に有名な作品から、丸や線で描かれた非常に簡素なものまで様々です。中には、十二支の動物たちと十二支以外の動物たちの合戦を描いた『十二類絵巻』といった想像で描かれた絵巻物もあります。想像上の物語でも、当時の城の実態をある程度踏まえていると考えられ、中世の城郭を知る上で参考になるそうです。
 聖徳太子の生涯を描いた『聖徳太子絵伝』は、中世にも数多く制作され、聖徳太子が生きた時代を描きつつ、制作された時代が反映されています。ここでは、13世紀と15世紀に制作された2点の同じ場面を取り上げ、足場だったところに、櫓が描かれている変化から、14世紀以降に櫓を築く城郭が増えたと考察されています。
 こうして、時代ごとに絵画史料を見ていくと、戦の変化に合わせて城郭の構造も変化していくことが読み取れると著者は言います。絵画をただ眺めているだけでは分からない、奥深さが感じられます。

(たつみ りさ)

『描かれた中世城郭:城絵図・屏風・絵巻物』竹井英文, 中澤克昭, 新谷和之編 吉川弘文館 2023.12

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